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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)13695号 判決

原告

岸田哲四郎

被告

株式会社木馬座

ほか一名

主文

被告滝田邦之は原告に対し金九四万円および内金八五万円に対する昭和四四年一二月三一日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告の被告滝田邦之に対するその余の請求および被告株式会社木馬座に対する請求を棄却する。

訴訟費用は原告と被告滝田邦之との間においては、原告に生じた費用の四分の一を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告株式会社木馬座との間においては、全部原告の負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一、請求の趣旨

一、被告らは各自原告に対し金二九四万九三三四円および内金二六八万一二一三円に対する昭和四四年一二月三一日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

第二、請求の趣旨に対する答弁

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第三、請求の原因

一、(事故の発生)

原告は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一)  発生時 昭和四三年一一月二四日午後八時五〇分頃

(二)  発生地 東京都世田谷区深沢七丁目八番一四号

(三)  加害車 自家用普通乗用自動車(横浜五ま一四五四号)

運転者 被告池田

(四)  被害車 自家用普通乗用自動車(品川五も五二九六号)

運転者 原告

被害者 原告

(五)  態様 出会頭の衝突

(六)  被害者原告は胸部挫傷、肺損傷、右脛骨開放骨折、右膝蓋骨々折、左足関節部打撲の傷害を受けた。

(七)  また、その後遺症は次のとおりであつて、これは、自賠法施行令別表等級の一二級七号に相当する。

右膝関節最大伸展一七五度

同最大屈曲 五〇度

二、(責任原因)

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。

(一)  被告木馬座は、加害車を業務用に使用し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

(二)  被告池田は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

三、(損害)

(一)  諸雑費

原告は、入院九二日、通院一三二日間の治療を受け、雑費として二万円を支出した。

(二)  休業損害

原告は、右治療に伴い、次のような休業を余儀なくされ三四万一二四八円の損害を蒙つた。

(休業期間)

昭和四三年一一月二四日から昭和四四年三月三一日まで一二八日間。

(事故時の月収)

岸田自動車工業所の代表取締役として月収八万円。

(三)  逸失利益

原告は、前記後遺症により、次のとおり、将来得べかりし利益を喪失した。その額は一三一万九九六五円と算定される。

(逸失利益算定起算時) 五二歳

(稼働可能年数) 一三年(昭和四四年七月六日から同五七年七月五日まで)

(労働能力低下の存すべき期間) 一三年

(収益) 月収八万円

(労働能力喪失率) 一四パーセント

(年五分の中間利息控除) ホフマン複式(年別)計算による。

(四)  慰藉料

原告の本件傷害による精神的損害を慰藉すべき額は、前記の諸事情に鑑み一〇〇万円が相当である。

(五)  弁護士費用

以上により、原告は二六八万一二一三円を被告らに対し請求しうるものであるところ、被告らはその任意の弁済に応じないので、原告は弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立てを委任し、手数料および成功報酬として二六万八一二一円を第一審判決言渡日に支払うことを約した。

四、(結論)

よつて、被告らに対し、原告は二九四万九三三四円および弁護士費用を除いた内金二六八万一二一三円に対する訴状送達の日の翌日(被告木馬座についてはそれ以後の日)である昭和四四年一二月三一日以後支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四、被告らの事実主張

一、(請求原因に対する認否)

第一項中(一)ないし(五)は認める。(六)(七)は知らない。

第二項中(一)は否認する。(二)は認める。

第三項は不知。

二、(事故態様に関する主張)

本件事故発生については被害者原告の酒気帯び運転、制限速度違反の過失も寄与しているのであるから、賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。

第五、被告主張に対する原告の認否。

原告の過失は否認する。

第六、証拠関係〔略〕

理由

一、(事故の発生)

請求原因第一項(一)ないし(五)の事実は当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によれば、原告は本件事故により、胸部挫傷による肺損傷、右脛骨開放骨折、右膝蓋骨々折、左足関節部打撲の傷害を受け、昭和四三年一一月二四日から昭和四四年二月二三日まで小倉病院に入院し、同月二四日から同年七月五日までに同病院に四二回通院して治療を受けたが、後遺症として右膝関節の機能に若干の障害を遺していること(最大伸展一七五度、最大屈曲五〇度)が認められる。なお、右の程度の後遺症は、自賠法施行令別表等級の一二級七号には未だ該当しないが、一三級相当と認められる。

二、(責任原因と被害者の過失)

(一)  〔証拠略〕によれば、被告池田は本件事故当時、被告木馬座の従業員で通勤に加害車を使用し、被告木馬座から駐車場の使用を許されていたことは認められるが、本件事故当日は連休の第二日目であり、被告池田は、私用で自己の所有する加害車を運転していたことが認められる。右事実によれば、本件事故当時、被告池田は加害車を専ら自己のために運行の用に供していたことがうかがわれ、本件全証拠によつても、被告木馬座が加害車の運行を支配しこれを自己のために運行の用に供していたものとは認められない。したがつて、被告木馬座に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当として棄却を免れない。

(二)  被告池田が加害者を自己のために運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。

(三)  〔証拠略〕によれば、本件事故現場附近の道路状況は、青山玉川通り方面(北北西)から駒沢通り方面(南南東)へ通ずる幅員七・一米の道路と駒沢方面(東北東)から玉川中町方面(西南西)へ通ずる幅員五・四米の道路とが直角に交差しており、いずれもアスフアルト舗装で歩車道の区別はなく、交差点での見透しは悪く、信号の設置もなく交通整理も行なわれていないが、駒沢方面から玉川中町方面へ通ずる道路は自転車を除いて西南西方面への一方通行であり、この道路から青山玉川方面或いは駒沢通り方面への右折は禁止されており、この道路には交差点手前に一時停止の標識があること、被害車は時速約四〇粁で南南東へ直進して交差点へ進入した際、時速約四〇粁で西南西へ直進していた加害車と出会頭に衝突したことが認められる。以上の事実によれば、原告には交差点へ進入するに際して徐行義務違反があり、被告池田には一時停止義務違反があり、原告の過失と被告池田の過失との割合は三対七を以て相当と認める。

三、(損害)

(一)  入院雑費

原告の入院期間は前記のとおり九二日間であるところ、一日当り少くとも二〇〇円の雑費を必要とすることは公知の事実であるから、原告は少くとも一万八四〇〇円の損害を蒙つたものと認められる。

(二)  休業損害

〔証拠略〕によれば、原告は有限会社岸田鍍金工業所の代表取締役として、同会社より月額八万円の給与を支給されていたところ、本件事故による傷害の治療のため昭和四三年一一月二四日から昭和四四年三月三一日まで欠勤し、その間給与を支給されなかつたことが認められ、その間の給与相当額すなわち、

八〇〇〇〇円÷三〇×一二八=三四一三三三円

の損害を蒙つたことが認められる。

(三)  逸失利益

原告の後遺症は前記のとおり自賠法施行令別表の一三級に相当するものと認められるが、〔証拠略〕によれば原告は昭和四五年一二月現在月額一〇万円の給与を支給されていることが認められ、右事実ならびに原告が代表取締役であることから、原告は後遺症にも拘らず原告に収入の減少なく、労働能力低下の損害は填補されているものと認められる。したがつて、逸失利益の請求は認められない。しかし、原告が月額一〇万円の収入をあげるためには、後遺症による苦痛を克服する必要があり、この点は慰藉料算定に際して斟酌する。

(四)  過失相殺

原告の財産上の損害は、(一)(二)の合計三五万九七三三円となるが、原告の前記過失を斟酌すると、被告池田に賠償せしめるべき金額は、二五万円を以て相当と認める。

(五)  慰藉料

本件事故の態様、原告の過失、原告の傷害の部位程度その他諸般の事情を総合勘案し、六〇万円を以て相当と認める。

(六)  弁護士費用

以上により、原告は八五万円を被告池田に対して請求しうるものであるところ、〔証拠略〕によれば、被告池田はその任意の弁済に応じないので、原告は弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立てを委任し、手数料および報酬として認容額のほぼ一割を第一審判決言渡日に支払うことを約したことが認められるところ、本件訴訟の経緯に鑑み、被告池田に賠償せしめるべき金額は九万円を以て相当と認める。

四、(結論)

よつて、被告池田は原告に対し九四万円および弁護士費用を除く八五万円に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明白な昭和四四年一二月三一日以降支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるから、右の限度で原告の請求を認容し、被告池田に対するその余の請求および被告木馬座に対する請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 篠田省二)

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